「佐伯先生」
「ん?」
花火から目を離さずに呼びかけた。
きっと佐伯先生も、同じように答えた。
「七瀬くんとは、ちゃんと2人で喋ったのは今日が初めてです」
「…うん、そっか」
キラキラ、キラキラ、花火が舞う。
「水島さん、夏期講習来ないの?」
「…国語だけ行きたいです、けど、今から間に合いますか…?」
夏休みも、会いたい。
40日も会えない休みなんて、いらない。
「…特別ね」
「ありがとうございます!」
夏休みも、会える。
最後の花火が上がった。
こんな幸せすぎる時間のことを、きっとずっと忘れない。
今日1日で、佐伯先生への“好き”がどれだけ大きくなっただろう。
離れてたって、一緒にいたって、私の“好き”は募るばかりで。
きっと一生、小さくなることなんてないんじゃないかな、なんて思った。
この人混みの中で、はぐれないように手を繋げる人になりたい。
花火が終わっても先生と一緒にいられる、理由がほしい。
生徒じゃなくて、特別な存在になりたい。
…大好き。
心の中では何度も何度も、数え切れないくらいに呟いたその言葉は、まだ口にできない。
花火の終わった空は少し寂しくなるくらい真っ暗で。
だけどさっきまでの綺麗な花火の余韻を残していた。



