「菊…やめて!」



菊の目が、ナミから私へと移る。



その黒い瞳に、私が写る…




「椿、ごめんね」




「…え?」




菊がパン…と両手を叩くと、ナミを縛っていたなにかが外れたかのように、ナミが落ちてゆく。



その動きをすぐに見た菊は、下へいきそっとナミを受け止めた。




…ナミは泣きじゃくって抵抗しているのに、なぜか動けないでいる。



なんで…早く、魔法を使って…!




「俺には誰も手出しなどできないでしょうね。

半世界五傑席、半世界でも名門の学園長月宮の高レベル者が集うと言われていますが、

俺に攻撃1つ与えられりゃしない…」





柊がすぐにタブレットを操作して…菊の周囲1mに、薄緑色の透明のドームを作る。



けど…菊は、そのドームを見て笑うだけ。




「こんなドームも、俺には効きませんよ」



そこで私はやっと、菊が笑った理由に気付いた。


なんで…菊の触ったところからドームが徐々になくなってる…!?




「俺に職持ちの能力など効きません。

それに…あなたたちはそろそろ、俺という存在を理解したらどうです?」




菊はにやり、と笑って…そっと肩あたりの二重になっているところを、私たちに見せてきた。



なんか、光ってる…けど、うまく見えない…



…いや、あれは…




「バッジ…」




和服である式服に似合わない、綺麗なバッジ。


なにに反射しているかわからないけど、なぜか光ってる。




「自らわずかな光を発光するバッジとなれば…分かるのでは?」




はっ…と、息を飲む音が柊の方向から聞こえた。



なんで、そうつぶやいてるのも。




…菊はそのバッジを隠すように袖を戻すと、また笑う。



その笑みは、今まで見た菊の笑みの中で1番…綺麗で、残酷だった。