きく。キク。菊……






何度も頭の中で繰り返されるその名を、


何度も頭の中で繰り返し呼んだ。






「…椿。貴女の幸福を祈っています」




そっと離れ、菊は練習室のドアをさあっと開けた。


その奥には、深い深い闇が広がっている。



その中へと、菊は…少し微笑みながら入っていく……




「…っ、待って…!!」



手を伸ばしても、もう届かなかった。


菊は…この、中に消えた。




「…椿、知り合いかよ?」



「…分からない」



「あちらは知っている様子でしたけどね」



「…うん」




菊。あなたは一体、誰?




…なぜか懐かしい気がするのは、


あの人に似ていたから?






「…行きますよ、椿。

あの男のことなんか考えず…今は2人を救出することを第一にしてください」



「あ…うん!

そうだね、2人を助けなきゃ……!」




1度、"菊"という存在を記憶の片隅に置こう。



…それでも、彼の顔がちらついて離れない。




「椿!」


「はいいぃぃ!!」


「…行きますよ」


「はいいぃぃ…」



珍しい、零が怒鳴るだなんて。


…でもぼーっとしてた私が悪いし。



柊と零に続いて、深い闇が広がる練習室へと入っていった。




…待ってて、2人とも!!