少しの沈黙の後、漸く藤枝さんが呟くように言った。


「過去かぁ……」


「ごめんなさい。」


「いや、ハッキリ言ってもらって良かった。沙紀は今の彼の事、好きなのかな?」


陽日の顔を思い浮かべる。


だけど思い浮かぶのは、みんなの前で見せるあの穏やかな笑顔ではなく、私だけに見せてくれる意地悪気な笑顔。


まるで悪戯っ子の様な。


「好き……なんだね。」


私の顔を見て藤枝さんにも何かが伝わったんだと思う。


「はい……まだ恋と呼ぶにも未熟なものですけど、それでも彼に会う度に私の中にある好きの気持ちがどんどん増えていくのが分かります。」


そう、私は確実に陽日の事が好きになっている。


少しずつだけど陽日の存在は私の中で大きくなっている。


それは藤枝さんの時の様な切なくて苦しい思いじゃないくて


暖かくて穏やかな思い。


こうして藤枝さんと話していても陽日の事を思うだけで心の中にジワッと暖かいものが感じられる。


大切にしたい思い……。


確実になりつつある思い。


陽日………。