だからこそ、ちゃんと伝えなきゃ。


今の私の気持ちを知ってもらわなきゃ。









「藤枝さん。」


藤枝さんが真っ直ぐに私を見つめる。


手は未だ頬に添えられたままだ。


「ん?」


「私、今………付き合ってる人がいます。」


藤枝さんの真っ黒な瞳が一瞬揺れたのが分かった。


そして漸く頬に添えられた手が離された。


「そうなんだ……知らなかったな。」


「はい。最近、付き合ったばかりなんですけど。」


陽日の子供みたいに笑う笑顔が頭に浮かぶ。


「それはーーーもう僕には入り込む余地すら無いってこと?」


藤枝さんが言葉を選びながら慎重に言う。


私の思い上手く伝えられるだろうか。


「私も藤枝さんとの事があってから、もう人を好きになるなんていいかなってずっと思ってました。」


「ごめん……沙紀。苦しませたね。」


「いえ、初めは苦しかったけど少しずつ気持ちの整理をつけましたから。時が解決してくれました。」


「そうだったんだね。」


「はい。だけどーーー」


「だけど?」


「正直言うと、藤枝さんとまた働く事になった時、かなり動揺しました。」


「それって……じゃあ、沙紀の気持ちはーーー」


「でも、それと同時に気付いたんです。」


「気付いた?」


「はい、藤枝さんへの思いは過去の物なんだなって。藤枝さんとの恋はもう終わったんだなって。」


自分でも驚くくらい冷静に話せている。


夜の透き通った空気が私の心を落ち着かせてくれる。