「突然、彼女から別れを切り出されたんだ。もう意地を張るのは止めたいって。」


「意地?」


「ああ、きっと彼女は彼女でずっと苦しんでいたのかもしれない。僕はその事を気付いてあげれなったけど……。」


ほんの少し藤枝さんの顔が悲しげに歪む。


きっと私には分からない彼女との繋がりがあるのだろう。












「沙紀……。」


「な、なんですか。」


やっぱり名前で呼ばれると胸がキュッとなる。


「僕は今回の事で、もう恋愛とかいいなって思ってた。」


私だって藤枝さんとの事があった後、同じ事を思っていた。


「人を好きになる事に疲れたんだ。もうこの先、ずっと一人でいいやって。」


「藤枝さん……。」


きっと失恋とは比べ物にならないくらい離婚をするという事は様々な面でキツい事なのかもしれない。


「だけど、こうして君と再会して気付いたんだ。僕の中に未だいる君の存在に。」


「えっ?」


「君の姿を見る度、その存在はどんどん大きくなって、僕は改めて気付いた。やっぱり君の事好きなんだなって。」 


「…………」


何か言わなきゃって思うのに……


なのに何も言えない。


何を言えば良いのか言葉が見当たらない。


「沙紀…、僕達もう一度最初からやり直せないのかな。」


藤枝さんの手が私の頬に添えられる。


このままじゃいけないって思うのに体が動かない。


藤枝さんの顔がゆっくりと近付いてくる。


大好きだった藤枝さん。


藤枝さんと居るだけで胸がいつだって締め付けられて苦しくて


藤枝さんに触れられる度にドキドキが止まらなくて……


私は藤枝さんの事が好きだった……。


この手の温もり、私を優しく呼ぶ甘い声


そしてこの真っ黒な瞳………


そう私は藤枝さんが好き、だったんだ。