「はい、今が良いです。ずっと機会を伺っていたので。」
目の前のイケメンが今一度、言った。
「好きです、俺、戸田原さんの事、好きです。」
容姿端麗、仕事も出来て人当たりも良くて
そんな社内イチの人気者が私を好き?
何て夢のような展開。
これきっと、ドラマだとか小説だと間違いなく彼の告白に一瞬で頭が真っ白になり、それでいて息が出来ないくらい胸がドキドキしてきて………。
残念ながら私の心音は未だ定期的に動き、息も苦しくない。
そして頭も真っ白になるどころか、この展開に寧ろ、さっきまで午後の睡魔に襲われていたのが、すっかり眠気が飛んでしまったくらいだ。
そう、私はこんな事では浮かれたりしない。もうそんな事で浮かれる年齢はとうに過ぎたのだ。
そもそもこんな社内イチの人気者が今年29歳になるがっつりアラサーの私に好意を持つなんて……。
怪しすぎるでしょ。
そうだ、なんかきっと裏がある筈。
彼が私に告白することで、きっと何か仕事上メリットがあるんだ。
今やほぼ総務を仕切りつつある私に名刺を再生紙ではなく自分だけ特別な高級和紙で作って欲しいとか……
出張で使うチケットを買いに行く時、ついでに北陸新幹線かがやきのチケットも個人的に取っておいて欲しいとか……
多少、無理のある発想ながらもそうに違いないと強引に思い込む。
或いはーーーただの暇つぶしとか?
彼とは全く違うベクトルを放つ地味な顔の私に誰もが認める人気者の彼が告白なんて、面白すぎるではないか。
いや、これ、面白いのレベル通り越して罰ゲームとか?
ああ……なるほど。
そう考えると一番しっくりくるわ。
仕事も出来て顔も良くて性格も良くて……なんて人、この世の中に居る筈ないのよ。
彼も結局のところ、人良さそうな顔して今、腹の中じゃ大笑いしてるに違いない。
そうに違いない。