「ちょ、ちょっとやめて……。」


戸惑いとほんの少しの嫌悪感を含みつつ、彼に言った。


「あっ、ごめんなさい。つい掴んでしまって……」


そう言って直ぐに腕を離したものの、つい掴むってどういう状況なの?


と言う新たな疑問が浮かび上がる。


けれど目の前に立ち塞がる彼が決して穏やかな体(てい)を崩さずそう言うのでそうなんだろうと、腑に落とす事にした。


「いえ、少し驚いたので……では、失礼します。」


そう、失礼させてよ。


これ以上、ここにいる必要はないでしょ?


さっき聞いた言葉は私の幻聴で、今、腕を掴まれたのもつい、ってだけの事。


踊り場をくるりと周り残りの階段を急いで上がろうと一つ目の段に足を掛けたら背後からまた声を掛けられた。


「ちゃんと……告白させてください。」


と、今度はハッキリと耳に入ってきた。


取り敢えず背を向けたままと言うのも何なのでゆっくり顔だけ振り返ると、思いの外、近い距離に居たので驚いた。


「えっと……それ今?」


言いながら、彼との距離を取りたく足を掛けた階段に両足とも乗せた。


踊り場に立つ彼と一つ目の段に上り立つ私。


すると身長差が少し縮まって目線がかなり近くなり、益々彼の顔をじっくりと見る羽目になってしまった。