時間と言うのはやはり嫌でも動いていくもので、その流れに追いつこうともがいていると、
いつの間にか藤枝さんとの恋は過去のものとなっていった。


好き、から


好きだった、に変わった。


と同時に私の恋に対する思いそのものも変わった。


もう恋はいいなって。


誰かを好きになるとか、もういいやって。


恋をする事に臆病になってしまったんだ。


それでも、ほんの少しずつ前に進み出していたのに。


もう藤枝さんへの思いにも踏ん切りがつきつつあったのに………。














「戸田原さん。」


「え、あ、はい……。」


な、なんで?
 

なんで振り返るの?


自分のデスクへと向かっていた藤枝さんが急に振り返って、その途端、心臓が早いペースで動き出すのが分かる。


今日に限ってフロアにはまだ私達だけだ。


「大丈夫かなって……。」


「はい?」


「ほら、僕がまた本社勤務になってしまったから。」


「ああ……。」


系列会社に出向に行っていた藤枝さんはこの度の人事でまた本社付となったのだ。


前任の課長が体調不良で急に退社した事もあり、藤枝さんが呼び戻されその地位に収まったのだ。


「ごめん…これじゃあ、僕が自惚れてるような発言だよね。全く、いい年して恥ずかしいよ。ハハッ。」


以前と変わらぬ頭を手をやりながらくしゃっと笑う藤枝さんの癖。


一瞬にして過去の記憶が蘇る。


「そんな、いい年だなんて。藤枝さんーーー課長はお若いです。」


お世辞ではない。


適度に鍛えられた体は仕立ての良いスーツをまとい端正に整った顔でテキパキと仕事を進める様は誰が見ても素敵な上司に映る。


「いいよ、気を使わなくて。僕ももう今年で34になるから。もうおっさんの仲間入りだって。」


「そんな、おっさんなんてとんでもない。藤枝さんは今もとても素敵ですっ!」


思わずムキになって声が大きくなる。


「ありがとう、嬉しいよ。戸田原さんこそーーー相変わらず素敵だよ。」


「いえ……私なんて……。」