沙紀さんと仲直り出来た帰り、俺のスマホがバイブした。


今、一番聞きたくない声の主からだ。


「お久しぶりです、父さん。」


抑揚の無い声で言うと


今から直ぐ来るようにと要件だけ一方的に伝え、通話は切れた。


久しぶりに話した親子の会話とは思えない淡々としたものだった。


俺は沙紀さんの温もりが少しでもまだ残るようにと体を抱きしめると仕方なく父親の元へと向かった。


久しぶりに帰った実家は相変わらず閑散としていて、ハウスキーパーにより、部屋は隅々まで片付いていた。


書斎に向かうとノックをする。


ーーー入りなさい


直に父親の声を聞くのはいつぶりだろうか。


「失礼します。」


他人行儀な挨拶をして無駄に重いドアを押し開け中へと入った。


「そこに座ってなさい。」


こちらに顔を向けることなくパソコン画面を見たまま父親が言う。


少し白髪が増えたか?


いちいち命令口調なのが苛つくけれど今に始まった事じゃなし、言われた通り目の前にあるソファに座る。


父親はまだ書斎机の上のパソコン画面に目を向けたままだ。


部屋をじっくりと見回してみる。


思えば俺がこの部屋に入るのは初めてだ。


これまで父親と話しがある時はリビングでしていた。


なのに今日は書斎に入れと言われた。


どういう心境の変化なのか分からないけど、妙に落ち着かない気持ちでそこにいた。