暫定彼氏〜本気にさせないで〜

「彼も子を持つ親。ワシから父親の話を聞いて、少なからずとも熱い血の通うここに何か引っ掛かったものはある筈。考えさせてほしいとだけ言って今日の所は引き取られたよ。」


「そうなんだ……じゃぁ、兎に角、今回の件は一旦無くなったって事になるのかな?」


「それは分からんよ。あくまでビジネスとして話をしたからね。まぁ、後は向こうの出方を待つだけだ。」


向こうはその気になれば強引な手を使ってでもうちを吸収合併しようと思えば出来るはず。


本当に、上手く行くのかな……。


それに陽日のお父さんは私と陽日の事を聞いてどう思ったんだろう。


そうだ、陽日も同席してたんだよね?


「おじいちゃん、陽日はなんて?」


「それがーーー」


「それが?」


「ずっと黙って聞いていたんだが、婿に貰うって話をした時、話は有り難いが父を一人にする訳にはいかないと。」


「陽日が?どうして?」


お父さんとは上手くいってないって言ってたのに?


「結局のところ、どういった父親であれ彼にとってはたった一人の親という事じゃないかと思う。まぁ、真相は本人に聞くといい。ただし、うちの会社に加藤くんがまた戻ってきたならの話だがな。」


「えっ……戻ってきたならってどう言う事?」


「沙紀、言ったろ?これはあくまでビジネスの話だと。もし加藤くん自身がうちには戻らないと選択するなら、それはきっと沙紀との事も終わらせると言う事になるんじゃないか?ワシはそう受け止めるのだが。」


「おじいちゃん……ビジネス、ビジネスってさっきから酷いよ。私達はそんな関係じゃない………」


「沙紀、もちろん、それはーーー」


「もういいっ!」


おじいちゃんが何か言いかけたのも聞かずに私はそのまま役員室を飛び出した。