暫定彼氏〜本気にさせないで〜

樋山さんから社内メールがあったのは定時を少し回った頃だった。


いつものように要件だけを簡潔に書いてあってもちろん、削除の指示も忘れてはいない。


ーーー業務が終わり次第、役員室に来ていただけますか?


やり掛けていた仕事を急いで終わらせ、そして荷物を纏めるとそのまま7階フロアを出た。


エレベーターホールに向かうももちろん、1階には向かわず最上階へ。


秘書課の人達に会わないよう、速やかに役員室に移動する。


ノックをすると、樋山さんがドアを開け出迎えてくれた。


中には会長であるおじいちゃんと社長の伯父がいた。


「はる………加藤くんは?」


陽日の姿がない事に動揺が隠せない。


「沙紀、お疲れさん。まぁ、そこに座りなさい。」


おじいちゃんが変わらぬ笑顔である事に、少し安心する。


「失礼します……。」


言われた通り役員室内にあるソファに座る。


さっき陽日とここで会った時には気付かなかったけど、社長室同様ここのソファも座り心地は最高だ。


「さてと……ワシの話を聞きたいかね?」


「お父さん、早く本題を。沙紀、顔が怖いぞ。」


話を勿体ぶるおじいちゃんに対して露骨に顔に出してしまった事を伯父に指摘された。


「沙紀は怒った顔でも美人だなぁ。」


未だ呑気にジジ馬鹿発言するおじいちゃんをスルーして伯父に問いかける。


「合併の話はどうなったんですか?」


「分かった、分かった。沙紀、ちゃんと話をしよう。」


おじいちゃんの隣に座る伯父が一つ溜息をついた。