「俺、会長に言われて暫く自宅待機してたんだ。」


私を送る帰り道、陽日がぽつりぽつりと話し出す。


「そんな状態だから沙紀さんへの連絡もしなかった。いや、正直に言うとただの掃除のおじさんだと思ってた人が会長だった事に驚いちゃって…沙紀さんにもなんて言ったら良いのか分かんなかった。兎に角、俺自身少し頭冷やそうとしてたんだ。そしたら今日、会長にうちに来ないかって誘って貰って。」


私の右手は陽日にしっかりと繋がれていて繋がれた手から陽日の温もりが伝わってくる。


「全然、知らなかった。なんだか知らない事だらけで浦島太郎になった気分だよ。」


「老けないでよ。」


といつものあの意地悪気な笑顔。


「失礼ね。」


「冗談だよ。」


そう言うと私が振りかざした手を掴み、そのまま引き寄せた。


「久しぶりだな……、沙紀さんの香り。落ち着く……」


「………私もこうしてると落ち着く。」


タクシーを拾おうと車の往来のある通りまで出てきたけどひと目も気にせず抱き合う私達。


ここで離れてしまったら今度こそ会えなくなるんじゃないかって。


そう思うと自然と陽日を抱きしめる手に力が入る。


いつの間にかこんなにも陽日の事、好きになってたんだ私。


心の奥から好きなんだなって気持ちが溢れてくる。


するとーーー


「沙紀さん……俺、今、こんな中途半端な立場だけど……」


「ん?」


車が忙しくて行き交う音やクラクションなんかも鳴ったりしているのに


その言葉だけが私の耳にハッキリと届く。















「俺、沙紀さんの事、抱きたい………」