「言いづらい、んだけど・・・」

震える口調で話す彼女の手を、そっと俺の両手で包み込んだ。


「私、…ここを離れることになったの」

「…うん」

彼女が勉強して、必死に問題を解いていた赤い本。

そこに書かれた大学名が、ここら辺の大学のものじゃないことくらい、

いくら馬鹿な俺でもわかってた。


それに、地元の大学に…って、本望じゃない学部を考えてたことも知ってる。

こうなるだろうなってことくらい、薄々わかってたんだ。

彼女は彼女の夢を追いかけるべきだ。

こんなちっぽけな男、たったひとりのことで、頭を悩ます必要なんかないんだ。


「…頑張れよ。行って、来い。」

だから俺の言うべき言葉は、背中を押してやれる言葉。

…言えた。

詰まるかと思ったけど、案外すんなり出た。


そして、彼女に微笑んでやれる余裕も、俺にはある。

「…うん。行ってくる。…行って、くるね。」

「うん、いってらっしゃい。」


彼女の表情は朗らかに、優しい涙を流していた。

きっと、これを俺に伝えるために悩んだんだろうな…。


そんな彼女が、苦しいくらいに、愛おしいと思った。