「そう……。まぁ、ホワイトちゃんは男にも恋愛にも慣れてなさそうだから、そういうことに疎くても仕方ないか」


独り言のように呟き、一人で納得したように頷く彼女だけど、なんだか今の言葉がチクリと刺さる。

慣れてないっていうのは、たしかにそうなんですけどね……。


昨日座っていた席に目をやると、夏輝さんとのひと時が蘇る。

気があるような言葉や、髪や肩に触れられた手の感覚を思い出すと、なんだか心の奥がむず痒くなってくる。

でも決して嫌ではなかった。ただ、あんな状況になるのが慣れていないから、戸惑ってしまっただけで。

私の心の準備が整うのは、いつになるのかな──。


お茶を飲みつつぼんやり考えていると、ジャスミンさんが「お水変えなくちゃ」と言いながら、レジの横から真っ赤なバラの花が飾られた一輪挿しを取る。

そういえば、昨日陽介に聞きそびれたんだった。


「ジャスミンさん、バラの花言葉って知ってますか?」


奥へ入ってしまう前に問い掛けると、こちらを振り向いた彼女は「もちろん!」と微笑む。


「情熱的なのよ。バラの花言葉はね……“あなたを愛します”」


──『バラの花言葉が、僕の気持ちだから』

その言葉と、彼の顔を蘇らせると、ドキンと胸が音を鳴らした。

やっぱり、陽介は……。

彼の想いを再確認した私は、また痛み出す胸を感じながら目を伏せた。