一面真っ白な空の下、家に向かってのろのろと歩く。寒いし早く帰りたいけれど、考えを巡らせていると早足にならない。


……吸収合併だなんて話はなかった。浅野さんは、私に嘘をついていた。

いったい何のために? 私達が騙されて、あたふたする様を見て楽しんでいただけなの?

まさかあの彼が、そんな大人気ないことをするはずがない、よね……。

でも、彼の嘘で私達が振り回されたのは事実。やっぱり許せないよ……!


考えているうちにむくむくと怒りが湧いてきて、次第に足取りが早くなる。自然と険しい顔つきになって、唇を噛んで歩いていた。

そして、家がある通りの道に出ると、白い背景に黒い人影があるのが視界に入った。

近付くと、全身黒で統一されたその人物がはっきり見えてくる。

私の家の前に佇む人が誰なのかを認識した瞬間、ドクンと心臓が音を立てた。


「浅、野さん……!?」


手持ち無沙汰な様子で煙草をくわえていた彼は、私の声に気付いたのかこちらを振り向く。

お祭りの日と同じような状況だけれど、ひとつ違うのは、彼の顔に笑みがないこと。

携帯灰皿に煙草を押し付けた彼は、私にゆっくりと近付いてくる。

それに比例して、勝手に心拍数が上がっていく。