何故か無意識に、コートを胸に抱きしめていたことに気付き、慌てて浅野さんに放り投げるようにして返した。

それを受け取った彼は、仏頂面に変わり、冷ややかな瞳で私を見据える。

う、非常に気まずい……。でも、あのなんだかよくわからない甘い雰囲気のまま流されていた方が、もっと気まずかったはず!


「も、もうオフィスラブ気分は十分味わいました! まだ仕事残ってるんで、私のことはほっといてください!」


両方の手の平を彼に向けて制するジェスチャーをして、早口でまくし立てる。

そしてすぐさまデスクに逃げると、「ははっ」という笑い声が聞こえてきた。

片手を髪に潜らせた彼が、俯き気味に笑っている。


「……掴めそうで掴めないな、君は」


浅野さんが何かを呟いたけれど聞き取れず、怪訝そうに眺めていると、彼はいつもの表情と態度に戻る。


「邪魔して悪かった。今度はおとなしく寝てるから」

「お願いします。……じゃなくて、帰って寝てくださいよ!」


うっかり承諾しそうになってしまった私に、彼はクスクスと笑いながら「終わるまで待ってるよ」と言い、ポケットから煙草の箱を取り出していた。


待っていてくれなくていいのに……ドキドキが治まらないじゃない。

もう、今のこと記憶から消し去りたいよ……。

流されそうになってしまった自分を恥じながら、無理やり思考を切り替え、それからは黙々と清算をこなすのだった。