自嘲するようなことを、彼がからかうような口調で言い、私は思わず抵抗するのをやめてしまった。

……浅野さんのこと嫌いだったら、こんなに悩んでいないよ。

腕の中で縮こまったまま自分の想いも閉じ込めていると、彼は私の髪を撫でながら、懇願するように囁く。


「俺と君がどんな関係かとか、仕事のことは忘れろよ……今は」


催眠術にかけられているみたいに、現実的な問題が頭から抜けていく。

感じるのは、ドキドキと激しく鳴る心臓と、身体の奥から生まれる熱さだけ。

私、どうしちゃったんだろう。何で抵抗しないの?

浅野さんと、こんなに密着して触れ合っていられることが信じられない。


ふいに、ふっと抱きしめる腕の力が緩んだ。

顔を上げ、少しだけ身体を離すと、色気を帯びた表情の浅野さんは、人差し指で軽くトントンと自分の心臓を叩く。


「まだ準備出来ないのか? ココの」


準備出来ないんじゃなくて、したくないんです……

と、心の中で呟きながら、彼の目を見れずに口では裏腹なことを言う。


「ま、まだですよ、全然」

「本当に?」


疑うように言う彼は、私の頬に手をあてがう。

ピクンと肩が震え、この状況に困惑しながらもゆっくり目を合わすと、彼はとろけるような笑みを浮かべた。