静かに、けれど真剣に訴えると、困惑した表情のままの陽介くんは、少し力の抜けた声を出す。


「あなたは……マシロを乗っ取りたいんでしょう? なのに、何でそんな──」

「俺は、彼女達を救いたいだけだ」


彼の言葉を遮り、はっきり言い切った。

ふわりとした前髪の下で、驚いたように目が開かれる。


「俺なりのやり方でね」


ふっと口角を上げてみせ、代金をカウンターに置いた。

それを手に取ることもせず、陽介くんは立ち尽くしたまま、「意味わかんねー……」とボソッと漏らす。

彼に笑いかけ、向日葵を手に店を出ようとすると、花桶に入れられた何種類ものカラフルなバラが目に入る。

その花桶にピンで止められた値札に、一言添えられているメッセージをよく見てみると。


「バラの花言葉は“あなたを愛します”……か。君もかなりキザじゃないか」

「へ?」


美玲の誕生日のことを思い出して言うと、陽介くんは一瞬キョトンとする。


「どっちの花言葉を受け入れてもらえるか、楽しみだな」


クスッと笑みを見せた俺は、「な、何で知ってんだよー!?」と叫ぶ彼の声を、背中で受け止めながら店を出た。


また意地悪してしまった。美玲と同じでなんか弄りたくなるんだよな。

俺も決して余裕があるわけじゃない。だが、彼女を容易く諦める気もない。

俺は俺に出来ることをするだけだ。

だから今は、この想いを秘めた一輪の花を、君に届けに行くとしよう。