「みーちゃん……!」


来た道を引き返した私は、何度か陽介に呼び止められ、さっきの居酒屋近くの明るい通りで足を止めた。

白い息を吐いて呼吸を整える私に、陽介がゆっくり近付く。

その少し眉を寄せた顔を見て、私はあはっと笑った。


「ごめん、急に走ったりして! なんか、止まってたら寒くなっちゃったから、身体温めようと思ってさ……!」

「みーちゃんが急に元気になるのは動揺してる時だって、僕はもうわかってるんだよ?」


変に明るくした私の声は、陽介の冷静な一言に一蹴されてしまう。

まぁ当然か、不自然すぎるもんね。私だって、何をこんなに動揺してるのかわからない。

……いや、違う。わからないんじゃなくて、わかりたくないんだ。


「みーちゃん、やっぱりあの人のこと──」


陽介の重々しい声に、見えない手で耳を塞ぐ。

今はもう、このことは考えたくない。


「やー、さすがだよね! 私のことこんなに理解してくれてるの、陽介だけだよ」


笑って彼の肩をぽんっと叩いた私は、トワルの駐車場がある方とは逆方向へ歩き始める。


「そんな無理した笑顔で言われても、嬉しくねーって……」


切なさが滲む呟きを、背中で受け止めながら。

クリスマスムードが漂う輝いた街を、私はどんな表情で歩いていただろう。

頭の中では浅野さんの言葉が繰り返され、心はぎゅうっと締め付けられて……ひどく苦しかった。