「大丈夫だよ。私は当分お嫁に行ったりなんてしないから」


剥がしたラッピングの布とリボンを集め、丁寧に畳みながら言う。

結婚なんておろか、私が好きな人からプレゼントをもらうのも、いつのことになるか予想もつかない。


「ていうか、ずっとマシロで働くつもりでいるし。だから安心して」


布とクマさんのビンを持って立ち上がり、自分の部屋へ向かおうとすると、「美玲」と呼び止められた。


「ん?」

「……父さんのことは、気にしなくていいんだからな」


神妙な顔をする私を、お父さんはわずかに切なさを混じらせた真剣な瞳で見上げる。


「好きな人が出来れば付き合っていいんだし、もっとやりたいことがあれば、自分の好きな道に進んでいい。マシロも、いつまで続けられるかわからないんだから」


お猪口を口にあて、ぐいっと呷る姿は、やり切れない想いを飲み込むようにも見えた。

突然こんなことを言い出すなんて、どうしたんだろう。


「……何言ってんの! マシロはなくならないし、私も辞めたりなんかしないよ」


軽く笑って言うと、お父さんも曖昧に微笑む。

何故か少しだけ温度差があるような私達を、透明なクマが見つめていた。