お客さんがいないのをいいことに、私達はしばらくふたりの様子を観察していた。

すると、ここから少し離れた、商店街の裏手にある駐車場へ行くだろうお父さんと会釈を交わし、浅野さんがこちらへ向かって歩き始めた。

うわ、来る……!


「阿部さん、戻りましょう」


そう言って白いセーターに包まれた腕を軽く叩くけれど、何故か彼女は動こうとしない。


「どうしたんですか?」

「もし店長に圧力掛けてたりしたら許せないわよね……。ちょっと黙ってられないかも」


険しい顔でそう言うなり、ずんずんと店先に出てしまう阿部さんに、私はギョッとする。


「え、ちょっ、阿部さん!?」


黙ってられないって、浅野さんに立ち向かうつもり!? 浜名さんといい、ふたりとも血の気が多いよ!

慌てて私も店先に出ると、仁王立ちする阿部さんの前に彼が迫ってきていた。

腹黒王子は、今日も美麗な笑みを浮かべて近付いてくる。


「どうも。こんにちは」

「今、店長に何を言ってたんですか?」


彼の挨拶を無視し、しかめっつらで言う阿部さんに、私は一人ハラハラしてしまう。

けれど、浅野さんはまったく動揺することなく答える。