「つまんなーい。私、息子しかいないから女の子と恋バナしたいのにー」

「それを私に求めるのはやめた方が……」

「もう、相変わらずクールなんだから」


頬を膨らませる彼女はなんだか可愛らしくて、ちょっぴり笑ってしまう。

もしお母さんが生きていたら、同じように詮索されていたのかもな、なんて。

私にとって、浜名さんと阿部さんは仕事仲間以上の、家族や親戚のような存在だから、たまにこんなふうに思っちゃうんだよね。


お弁当を片付けながら、阿部さんに言われたおかげで陽介のことを思い出した。

……そうだ、陽介と由香を誘って、ご飯でも食べに行こうかな。悶々としてる時は、笑って話すのが一番スッキリするし。

そう思い立って、さっそく二人の都合を聞いてみようと、短いメールを作る。

すると、バインダーを棚に戻しながら、阿部さんが何気ない調子でこう言った。


「もったいないわよ、美玲ちゃんほどの可愛い子が恋愛しないなんて。まぁ、本当に好きな相手が現れたら、どう足掻いても落ちるものだと思うけどね」


──ずしりとした重みを持って、その言葉が私の中に落ちてきた気がした。

どう足掻いても、落ちるもの。

それは、例外なく私にも当てはまることなのだろうか。