「あはは、なんかちょっといろいろ鬱憤が溜まっちゃいまして……」

「どうしたのよー、大丈夫? ……あ」


乱した髪を手ぐしで整えていると、心配そうにしていた阿部さんは、ドアを閉めてささっと私のすぐそばにやってくる。

目をぱちくりさせながら見上げると、彼女はどこか楽しそうにこんなことを言う。


「もしかして恋の悩み? ねぇ、そうなんでしょ?」

「えぇっ!?」


ドキッと勝手に胸が跳ね、首と両手をぶんぶんと振る。


「いやいやいや、違いますよ! そんなんじゃ……」

「その動揺っぷりがアヤシイわよ。隠さなくていいってば」


ニヤリと口角を上げ、私の肩をぽんと叩く阿部さん。

今の私のリアクション怪しかった? 否定する時にこうなるのって普通じゃ……。

口の端を引きつらせていると、彼女は細い顎に手をあて、わくわくした様子で考えを巡らせ始めた。


「相手は誰かしらー。やっぱり陽介くん? それとも別の……? 浜名さんには内緒にしといてあげるから、私にだけこっそり教えなさいよ」

「だから、違いますって! 断じて恋ではありません!」


自分にも言い聞かせるようにきっぱり否定すると、阿部さんは不満げに口を尖らせる。