三木さんは、浅野さんの近くにいる女性なら皆、彼に惚れると思っているのだろうか。

とすれば、私もその中の一人、彼女の敵ということになるわけで……。


「彼は、私のものです」


無表情だけれど、威嚇するような強さを湛えた瞳で、そう宣言された。

ドクドクと脈打ち始める鼓動が、煩わしさを抱かせる。


三木さんは、浅野さんの腹黒さを知らないの?

知っていて、それでも好きなの?

どちらにせよ、彼女の想いはとても強いことが見て取れる。

……浅野さんは、彼女のこの想いを受け止めているの?


二人が親しい間柄でも、今みたいに宣言されても、私には関係のないこと。

それなのに、どうしてこんなに、締め付けられているみたいに胸が苦しいんだろう。

上辺だけの甘い言葉と、微笑みと、悩ましげに触れた手のぬくもりが、消えるどころかますます色濃く残ってしまうのは何故なんだろう──。



「……鍵を閉めます。帰りましょう」


知らず知らずのうちに目線を落とし、黙り込んでいた私に、三木さんの事務的な声が投げ掛けられた。

ノートやペンケースを乗せた段ボール箱を抱え、歩き出す彼女を見て、はっとした私もようやく動き出す。

そうして会議室を後にする私達に、特別な会話は生まれなかった。

残ったものは、きっと取り除くことが困難であろう、心のもやだけ──。