答えは出かかっているのに、はっきり出してしまうのを何故か躊躇っていると、ゆっくりと浅野さんの手が離された。

冷えていく頬と熱を持ったままの心身が、ちぐはぐでなんだか変な感じ。

こちらに向けていた身体を元に戻した彼は、ぼうっとする私にクールな笑みを見せる。


「心の準備運動になった?」

「ほぇ……?」


突拍子もない一言に、まだ脳がうまく回転しない私は、気の抜けた声を漏らした。

浅野さんは再び缶コーヒーを口に近付けつつ、ちょっぴり楽しそうに口角を上げて言う。


「オフィスラブ気分を味わって、少しでも恋愛する気になってくれたなら嬉しいんだけど」

「んなっ……!」


かぁっと顔に熱が集まる。

もしかして、ああいうふうにすれば私がドキドキするって最初から見透かされていた?

またからかわれたのか……悔しいぃ~!


「よ、余計なお世話なんですけど!!」


ぷいっとそっぽを向くと、クスクス笑う声が耳に届く。

何なのよもー……ていうか、いつ誰が来るかもわからない社内であんなことしちゃダメでしょう!

たしかにね? ふたりきりのオフィスでいい雰囲気になって、緊張感と背徳感でいっぱいになりながら、あわよくばキスしちゃったり……なんていうオフィスラブに憧れはあったし、ドキドキは想像以上だって実際に今のでよくわかったけど……

って、今はそんなことどうでもいい!