そんな疑問をぶつける間もなく、私のすぐそばに来た彼は「それより」と話を変える。


「今オフィスを覗いてただろ。社内が気になるなら案内してあげようか?」

「……結構です」


ぷい、とそっぽを向き、そそくさと三階へ続く階段を上る。

それでも、彼は私が講習会に来ただけで満足しているみたいだ。


数日前、浅野さんはマシロにやって来た。手荒れに悩む浜名さんのために、掃除用のゴム手袋を持って。

袖口の部分が花柄になっていて、リボンまでついた可愛らしいデザインのそれをプレゼントしてくれた彼に、浜名さんが目をハートにしていたのは言うまでもない。


しかも、浅野さんはイメチェンしたマシロの店内を見回して、『なかなかいい店になってきたじゃないか』と褒めたのだ。

マシロをトワル色に染めようとしている彼が、そんなことを言うのは違和感がある。

意地の悪いこの人のことだから、もしかしたら上げてから落とそうっていう魂胆なのかもしれないけど。


いい人なのか何なのか、思考回路がどうなっているのかもはっきりとわからない。

そんな彼に、私は素直に講習会に行くと言えず、『第二金曜日、休み取りましたから』とだけ伝えた。

それで意味を理解したらしい彼は、頷きながら満足げな笑みを浮かべ、私の頭をぽんと優しく撫でたのだった。