「そうでしたか。会場は一つ上の階の、突き当たりの部屋ですよ」

「あ、ありがとうございます!」


親切に教えてくれた、私より少しだけ背の高い彼にぺこりとお辞儀すると、「頑張ってくださいね」とにこやかに言ってくれた。

うわー良い人! なんか癒されるし。

のほほんとした感じの男性がオフィスに入っていくのをほっこりした気分で見送ると、再び後ろから、今度は聞き覚えのある声が響く。


「社長に声を掛けられるなんて、君もたいしたもんだな」


ギクリとしつつ振り向くと、麗しい笑みを携えた浅野さんが、階段を上ってきたところだった。

来た来たー、腹黒王子!

……ていうかそれより、今なんだかすごい重要なこと、言ったよね?


「えぇっ、今の人……社長さんなんですか!?」


驚きを露わにして思わず叫ぶと、浅野さんはクスッと笑いながら「あぁ」と頷く。

私、とんでもないお方と話しちゃったのね!


「まぁ、あの人“社長”っていうオーラをまったく出さないからな。いつもニコニコヘラヘラしてるし、普通の社員に間違われても仕方ない」

「い、いいんですか、そんなこと言っちゃって……」


歯に衣着せぬ物言いをする彼に、何故か私の方がオドオドしてしまう。

陰でではあるけど、社長相手にそんな失礼なことを言えるなんて、浅野さんってどういう立場なの?