ここで事務仕事をしているのか……と、興味が湧いた私はドアに近付き、意味もなく背中を丸めてそっと中の様子を覗いてみた。


店内と同じく明るく綺麗なオフィスは、いくつかの島に分かれていて、スーツ姿の男性とフェミニンな服装の女性が半々くらいで働いている。

きちんと整理整頓されたデスクの奥には、パーティションで区切られた空間もあるようだ。

電話対応していたり、資料を片手に数人が話し合っていたり、活気に満ちているのがここからでもわかった。


これぞ“オフィス”よね。本当に、ウチと同じ業種なのに雰囲気が全然違うな……。

感心したような気持ちで眺めていた、その時。


「どうかされましたか?」

「ひゃぅ!?」


突然背後から男性の声が聞こえ、油断しまくっていた私は変な叫び声を上げてしまった。

猫みたいに丸めていた背筋をぴんと伸ばし、ばっと振り向くと、口元に灰色の髭を生やした五十代前半くらいの男性がいる。

ぜ、全然気付かなかった……!

目を見開く私に、お髭と七三分けの前髪が印象的な、和やかな雰囲気を漂わせる男性はもう一度問う。


「こちらに何かご用ですか?」

「あ、いえあの、すみません! 私、講習会に来た者でありまして……」


どぎまぎしながら、なんだか妙な言葉遣いで返すと、人の良さそうな顔に笑みが広がった。