前、私が休みの時に夏輝さんが来てお父さんと話していたと、阿部さんが言っていた。

それはきっと、吸収合併のことで話があって来たんじゃないだろうか。

彼がトワルでどういう立場なのかはわからないけれど。


「そうか、浅野くんが……」


お父さんは動揺したように目線を泳がせると、「今、彼と会ったのか?」と聞いてくる。

そういえば、お父さんは私と夏輝さんのことは知らないんだった。一緒に飲みに行ったなんてことは口が裂けても言えないけれど、彼と会ったことはもう隠していたって仕方ない。


「……うん、偶然ね。この前、キャンディーをくれたのがその人で、その後もお店に来たから話したこともあって」

「そうか……」


もっとつっこまれるかと思ったけれど、お父さんは何かを考えるように目線を落とし、顎に手をあてる。

何を考えているのかはわからないけど、これだけはしっかり守ってもらわないと!


「ねぇ、もうあの人に何か聞かれたりしても、正直に教えちゃダメよ! 弱みを見せたら絶対ダメ!」

「は、はい」


つかみ掛かりそうな勢いでまくし立てる私に、お父さんは何故か敬語で返事をした。

そのままの勢いで「夏輝さ──」と、今までのように名前を呼ぼうとして留まる。

そしてぐっと拳を握り、感情を抑えながらぼそりと漏らした。