その日の夕方、お母さんが買い物に行っている間に電話が鳴った。


家電になんて珍しい。


不審に思いながら受話器を取る。


「はい、戸塚です」


『あっ!戸塚さん?佐山です』


「佐山さん…?」


何で電話なんて…


『退院したんだね…よかった…』


受話器の向こう側ですすり泣くような嗚咽が聞こえる。


紛れもなく、佐山さんのものだ。


『あ、あたし…ひどいことしちゃってごめんなさい。言い訳になっちゃうかもしれないけど、先生達に説明しても聞いてくれなくて…ごめんね…』


やっぱり先生達は耳を貸さないか。


当人が言っても聞かないのならもうどうしようもない。


あんまり事を大きくしたくないんだろうな。


私も大事にしたいわけじゃないけれど、そこまで頑なに隠蔽されるとちょっと…


『怪我は大丈夫?』


「え………聞いてないの?」


お母さん言ってないのかな。


目のことを知っているなら怪我は大丈夫?の前にそのことについて聞いてくるはずだもん。


『血がたくさん出てたから…傷が残るような大怪我だったんだよね…?すぐに先生が来て離されちゃったからよく見えなくて』


「…ううん、平気。もう治ったよ」


よかった。


佐山さん目のこと知らないんだ。


義眼は精密に作られているから万が一にもバレる可能性は低い。


それなら知らないままの方がいいよね。