いつ来るのか予測できない深影に気が気じゃなくて、せっかくのあんみつの味もよくわからない。
そわそわと落ち着かない私にも無邪気に笑いかけてくる翔太くんにぎこちなく笑い返しながら、10分ほど経った時。
「鏡華」
背後から聞こえてきた声に、ビクリと肩が震えた。
振り向くと、そこには思った通りの人。
「深影……」
体操服にエプロン姿の深影が大谷田さんと翔太くんを見るなり、ペコリと会釈をする。
「初めまして」
「こちらこそ、初めまして。えーっと…鏡華ちゃんの…彼氏?」
大谷田さんも大谷田さんで普通に挨拶し返してるし…
「はい。付き合っています」
「そっか……」
深影の言葉に頬が熱くなるのを感じた。
何かを考え込むようにしたあと、大谷田さんがにっこりと笑う。
「じゃあ、行っておいで」
「えっ、大谷田さんお金……」
「いいからいいから」
ひらひらと手を振りながら、大谷田さんが今日一番の笑顔を見せる。
気まずい雰囲気にならなくてよかったけれど、これも何だか気恥ずかしい。
「…ありがとうございます」
お代は甘えることにしよう。
お礼を言って席を立った時、スーツの裾をクイッと引かれた。
「きょうかちゃん、いっちゃうの?」
可愛らしい声と共に、少しだけ眉を下げた翔太くんがスプーンを止めて私を見上げる。
可愛い…もう可愛いしか言っていないけれど、すごく可愛い。
「ごめんね。また後で会えるから、ね?」
ふわふわの髪の毛を撫でると、不満げな顔をしながら、渋々って感じで手を離してくれた。
隣で黙ってる深影から痛いくらいの視線を感じる。
もう、隠せない。



