「手伝っているお店にね、よく来てくれる男性がいるの」 男の人…? それって… つい昨日の春霞屋で聞こえてきた会話を思い出す。 お店の常連っぽいおじさん達が言ってたっけ。 確か…… 「大谷田…さん?」 眠った辺りから曖昧な記憶を引きずり出して、ポソリと呟くとお母さんがハッと息をのんだ音がした。 「知っているの?」 「え…いや、知らない。銭湯でおじさん達が言ってたのを聞いただけ」 それ以上は何も知らない。 大谷田さんが誰なのかも、どんな人なのかも。