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ドンドン、と玄関の戸を叩く。
「はいはい…おお?鏡華ちゃんやないか。どうした?そんなにびしょ濡れになって…入りなさい」
ビックリした顔のおじいちゃんが家に招き入れてくれる。
何も訊かずにバスタオルを被せてくれた。
「お母さんは今日も仕事に行っとるんやろ?」
コクン、と頷くことしかできない。
今声を出したら絶対に震えてしまうから。
「この雨じゃあ帰ってこれんかもなあ…最近は雨が多くて困るわ」
俯いて足取りの覚束無い私の肩を押してくれるおじいちゃん。
貸してくれた深影のジャージを着ると、袖が長くて手が出ないし、裾は太ももの辺りまである。
ふわりと香る深影の匂い。
柔軟剤の匂いだけじゃない、深影が普段に着ているものだからこその香り。
それだけでなぜかとても、安心した。



