あの日失くした星空に、君を映して。



ここまで走ってきただけで苦しい息を整える間もなく階段を駆け上がる。


もう毎日の日課になったせいで、キツさを感じなくなった階段も、今は足が痛いし、呼吸がうまくできない。


上る間に何を言うか考えるつもりだったのに、そんな余裕はなくて


ジットリとした汗が背中を伝う頃、ようやく頂上にたどりついた。


「っ…はあ…はあ…」


息が苦しい。


ガクン、と力が抜けて草原の上に座り込んだ。


深影の背中がすぐそこに見えているのに、息が整わないんじゃ呼ぶこともできない。


深影、気付いて。


心の中で深影を呼ぶと、それが通じたかのように驚いた顔が振り返った。


目の前が霞んでぼんやりとしか見えないけれど。


「鏡華…?なんで…」


なんでってこっちが聞きたいよ。


深影が呼んだんじゃないの?


パクパクと口を開くと、深影が自分のリュックの中からペットボトルを取り出した。


半分減ったお茶のペットボトル。


フタを開けて差し出そうとした深影の手が一瞬止まる。


「み……かげ?」


だいぶ呼吸が落ち着いてきて、掠れた声で言う。


迷うように俯いたあと、ズイとペットボトルを押し付けられた。


なんだろう…深影怒ってないのかな。


でも何か様子が変だし。


冷えたお茶で喉が潤うと、ぼやけた視界もはっきりしてきた。


「ありがと、深影」


「………嫌がるかと思った」


「え…?何が?」


「間接」


小声でボソッと言われて、手に持ったままのペットボトルを見る。


ああ、そんなことか。


別に気にしないのに。


「風香とも前にしてたでしょ?気にしないよ」


もしかして、私が口付けた後のお茶を飲むのが嫌とか?


そうだよね多分。


買って返そうにも家に帰らないとお茶なんてないし…