ズーンと重くなった心。
私がどれだけ追いかけても深影が逃げるんじゃどうしようもないよ。
波の音だけが私と風香の間をすり抜けていったとき
ジャリ、と足音がした。
「あれ、幸久?」
え…工藤くん?
慌てて振り向くと、ムスッとした表情の工藤くんが立っていた。
「どしたん?」
風香が首を傾げるのを無視して、工藤くんが掴んだのは私の手首。
「えっ!工藤くん?」
突然なに!?
引っ張られるままに立ち上がると、そのまま腕を引かれて歩き出す。
「幸久!あんた何しとんの!」
「深影が呼んでる」
「は?なんでなん?」
「風香は帰ってろ」
訳がわからないって顔をする風香を置いて、工藤くんが走り出す。
1分1秒が惜しいって感じで珍しく額に汗を浮かべる工藤くんは多分ここまで走ってきたんだと思う。
手を引かれるままに走って、ようやく立ち止まったのは、ニシロ階段。
「上にいるから、行ってやって」
「でも…」
急に連れてこられても、何を話せばいいのかわからない。
深影はまだ怒ってるんでしょ?
心の準備もまだなのに…
「怒ってないよ、深影は。だから大丈夫」
トン、と背中を押される。
大丈夫って風香も工藤くんも同じことを言ってる。
それならもう、行くしかないよね。



