「えっ、じゃあ4組の女の子があの噂を流した犯人だったの?それ先生には?」

昼休みになり真緒と良太と一緒に昼飯を食べていた。朝から機嫌が悪かったオレを心配していた2人には、戸叶さんだと名前は明かさないまでも正直に話すことにしたのだ。

「本人も反省していたみたいだし、別に噂を流したからって告げ口するようなことでもないだろ?」
「まぁ、反省してるんだったら……なぁ」

オレは欠片ほども気がついてはいなかった。今朝の戸叶さんの最後のうずくまり震える姿が、反省をしていたのではなく、歪んだ感情で喜びにひたっていただけなのだということに。

「じゃあ、リム助はその為に朝早くに出てってたのか?」

2人は朝にオレが戸叶さんと一緒に居たことを知りながら、そのことを告ずにいた。勿論オレはそんなことは知らないので、わざわざ名前を出したり、今朝早くに出たのが戸叶さんと会うためだったのだと言うこともなかった。

「いやー、なんかたまたま早くに起きちゃったから早めに出ただけだよ。その為ってなんだよ?」 そう言って笑ってみたけれど、2人は真剣な表情のままでオレを見ている。オレはその視線に耐えられずに聞く。

「な、なに?」
「いーや。いくらイケメンでも作り笑顔って気持ち悪いなぁって思っただけ」
「え?」

良太は弁当に手をつけながら、じっとオレの目を見つめてそう言った。真緒はそんな様子をハラハラと見ていた。

「あ、そだ。湊と榎本さんの葬儀だけど家族と一部の人だけでやるってさ。親御さんが学校に対してよく思ってないみたいで、参列とかも断られてるらしいけどな」
「子どもが急に自殺したんだもんね……いくらイジメとかの問題は無かったって言っても、学校や周りの人間関係に不信感持っても不思議じゃないよね……」

葬儀は故人との別れの儀式、つまりは遺された者が心の生理をする為の1つの行為だ。真緒は参列できないことに寂しさを抱いているようで、目をふせてそう言った。

「ああ。でも、未だに実感わかないんだよなぁ。2人の席に菊の花があるのも違和感しか感じないし、あれもオレたちが納得する為の1つの儀式なんだろうなぁ……」

そう呟いて良太は澄み渡る空を見上げていた。鼻の奥に残る、その白い花の香りから目を背けようとしたのは、オレが事実から逃げようとしていたからなのだろうか?そんなことを思いながら、オレもそんな青空を見上げていたんだ。