「む?なんだアイツは?」
夜の11時過ぎ、とある家の前を巡回していた警官が家の前に立ち止まる不審な人物に声をかけようとしていた。
「くくくっ、これが3人目か?いや5人目かもしれないよな」
そこはつい先日に一人娘を自殺で亡くした家の前であり、他殺の可能性が低いことから自殺として処理されたが、そのあまりに凄惨な現場の状況から事件捜査に加わった者には箝口令がしかれるほどの現場であった。
そんな現場の前をうろつく人物にまともな者は居ないだろうことは素人でも分かる。そこに警察官が出くわしたのだから、補導の対象となるのはしぜんなことだった。
「ちょっと君、少し良いかな?
……なっ!?」
声をかけた警察官が見たのは狂気に取り憑かれたかのような笑顔に背筋が凍りついた。まるで事件のことを知っていて死を慈しむかのように、愛でるかのようにその目は恍惚に濡れていた。
「いったいここで何をしていたんだ?何か身分を提示できるものがあったら提示しなさい」
「くひっ」
「何を笑って……君さっきから何処を見て?」
不気味な笑顔の視線の先に、警察官である自分は写っていなかった。まるで自分の背後を見つめて嬉しそうに笑っている様に見えて、思わず視線を外してしまった。
「……なんだ何もないじゃないか。おふざけは良いから、ほら学生証なりなんなりあるだろう?ちゃんと見せなさい。って……あれ?」
ほんの一瞬背後を確認した隙に、そこに居たはずの人物は忽然と姿を消していた。
「何だったんだ?不気味な少年だったな……」



