10分くらいだろうか、オレ達はそのままどちらも口を開くこともなく。携帯を取り出したり動くわけでもなくただそうしていた。だけど居心地は悪くなかった。

「・・・・・・・さてと、とりあえずスポドリとか買ってくるけど、後なんか口にできそうなものあるか?ゼリーとかプリン?それともアイス?」
「いや、母ちゃんか」

そんなやり取りをして少し笑ってしまった。本当にこれも良太の成せる技なんだけど、素でやっているのか故意にやっているのか分からないんだよな。だからこそこちらとしても気に病んだりしない。本当にすごいやつだよ。

「じゃあ取り敢えず買ってくるわ。寝とけよ!・・・・・・って言いたいところだけど、少し聞きたいことあるから、帰ったら話そう」
「お、おう」
「んじゃ、いってきます」

出かける際での言葉には少しめんをくらった。良太だったらオレが動いたりしないように「寝とけ」 って明言しそうなのに、聞きたいことっていうのがそれだけ重要なことなのだろう。

扉が閉まる音がして、無意識に携帯を取り出していた。着信履歴はない。時間は8時半を回っていた。真緒は間に合っただろうか?榎本さんは登校したのだろうか?それとも、やっぱり・・・・・・

「真緒からの連絡を待つしかないか・・・・・・直接メール来るかな?良太にまずは連絡取るかな?はあ・・・・・・」

うつ伏せから寝返りをうつと低い天井の端に染みを見つけた。

「あんな所に染みなんてあったんだな」

エアコンの無い部屋。焼けるような日差しの中に、ほんの少し涼しい風が入り込む。黒ずんだ染みは雨漏りによるものなのか、そんなどうでも良いことを考えている内に時間は過ぎていった。

「ただいまー」

古い扉の耳障りな開閉音と共に良太の元気な声が響いた。手に持ったレジ袋が揺れる音がしている。良太は一人用の小さな冷蔵庫を開けてテキパキと何かを入れている。目の端にしか映ってないけれど、これはやはりおかんだな。まあ、母親の記憶なんてものはオレにはないのだけれど。

「お、ちゃんと横になってたな。感心、感心。ほい、スポドリとお茶ね。あとプリンと飲み物は冷蔵庫に入れさせてもらったぞ」
「ああ、ありがとう」

そう言いながら良太はスポーツドリンクのキャップを開けて渡してくれた。本当に些細な動作からマメさが伝わってくるな。なんだこいつ。そんなこと思いながら見つめていると良太は不思議そうに眼を見開いた。

「にしても冷蔵庫の中、なんも入ってねえのな。ちゃんと購買のパン以外も食ってるのか?」

さっきと同じ場所に座って良太はコーラを開けて飲み始めた。オレも一口、スポーツドリンクを口にした。

「飯は食ったり食わなかったりだな。それもコンビニとかだから冷蔵庫もほとんど使てないよ」
「そか」

たった一言そう返事をして良太は、何もないオレの部屋をゆっくりと見渡した。その表情はどこか淋しそうに見えた。

「それで?学校を欠席した病人に起きてろって言ってまで聞きたかったことって?」

きっとこちらか切り出さなくても、少ししたら良太から話を始めたんだと思う。だけど、これは伝わるのかも分からないオレの中での誠意のようなもので、良太は真剣な顔つきになった。

「お前はすぐに気持ちを隠すから、単刀直入に言うな。湊のことオレもすげえショックだったししんどかった。だけどお前のその様子ってただ湊が死んじゃったことのショックだけのことじゃないよな?それに、今日の榎本さんのことも・・・・・・」

クラスメイトの突然の死に驚かない人はいないだろう。それが友達だったのなら強いショックを受けるのも自然なことだ。だけど・・・・・・

「オレに言えることがあるなら言ってくれ。ってか、オレくらいしか巻き込める友達いないだろ?一人で抱え込まないで、オレにも背負わせてくれよ」