良太が掃除道具を片付けて戻ってくる頃には、オレはどうにか立ち上がることができるようになっていた。視線の先ではまだブルーシートが往来につられて揺れている。

「お待たせ、戻ったぞー」
「良太!ごめんね私なにもできなくて」

戻ってきた良太に真緒はそう言った。少しうつむいていて気を落としていることは明白だった。良太はそんな真緒を見て一度視線を横にやった。振り返ると何故か少し頬を赤らめていて、真緒の頭をぽんと優しく叩く。

「リム助が不安にならないように側にいてあげられるのは真緒しかいなかったんだから、何もできなかったなんて言うなよ。たまたま適材適所がオレは掃除だったってだけだよ。なあ、リム助?」

良太はそう言ってオレに笑いかけた。真緒はまだうつむきがちで、不安そうにこちらを見ていた。

「うん。二人が居てくれて本当に助かったよ。ありがとう」

「な?」 と言って良太はにかっと笑った。真緒も少し安心したのか、その表情はいつも通りに戻って頷いていた。

「あずきちゃんも心配だけど、ここに居ても分かることじゃないし・・・・・・リアム君学校は」
「ダメだ!」

真緒が登校するかどうかをオレに確認しようとした時、良太が有無を言わさぬ語調でそう否定した。

「こんな調子のまま連れていけるわけがない。お前は今日は休め」
「いや、でも・・・・・・」

傍から見たら体調不良なのだろうけれど、その理由が夢のせいって分かっていることが辛かった。だけれど、良太の顔はこれまでに見たことがないほどに真剣で、オレは口まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。

「分かった・・・・・・」
「よし!じゃあ帰るぞ。真緒はこのまま学校行きな、オレはリム助送って行って少し買い物とかしてから遅れて行くよ」

表情こそいつのも良平だったけれど、きっと真緒もオレと同じようにその言葉がやはり有無を言わさぬものと感じていたのだろう。

「うん分かった。若林先生にはリアム君の欠席と良太の遅刻のこと上手く言っておくね」
「うん、ありがとう真緒」

学校はこのバリケードの先だから、真緒は迂回して行くことになる。すぐそこの道でオレ達は分かれて、良太は背中を支えながら一緒に歩いてくれている。最後の真緒の顔が頭にこびりついて離れなかった。あの顔は心配や不安ではなくきっと・・・・・・

帰り道は良太は口を開かなかった。ゆっくりと雲が通り過ぎて行くのとは正反対に家までの時間はあっという間に感じた。

部屋に入ってベッドにまで誘導される。そうこれは無言の圧力だ、寝て休めと言っているのだろう。オレはちらりと良太の顔を見たが表情が変わらない。堪忍して寝そべることにした。

友達の前で無防備にベッドに伏せるってこの状況はいったい何なのだろう。良太は開いているスペースにゆっくりと腰を下ろした。そしてこちらを見つめている。

チュンチュンといつものスズメが窓の近くで鳴いていた。窓越しの雲にようやく、オレ達の時間は追い付いたのだった。