首都圏を中心にして起こった連続殺人事件。

その手口の巧妙さと、人道をそれる凄惨な事件現場の有り様、無残な死体の状態が世間を騒がせたのは無理もないことだった。

そのあまりにもおぞましい現場は、詳細の報道について規制をかけざるを得ない程に惨たらしいもので、事件の関係者には厳しく箝口令が敷かれた。

とはいうものの箝口令などの有無に関わらず、口にするのも恐ろしいと感じた者が関係者の大半であったのは言うべくもない。

しかし、人の口を完全につぐむことなどできることはなく、どこかしらから確実に情報は漏洩した。

それが悪意のある者の仕業だったのか、怯え震える者が他者に情報を吐露することで借り物の安息を得る為のものだったのかは知る由もないが、その事件の隠された詳細は確かに世間に広まっていったのだ。

一度あふれ出した情報は、歯止めをする間もなく広がっていくのは自然の摂理であって、一足飛びに紆余曲折としながら尾ひれをつけ、世間に広まり恐怖は感染していくこととなった。

ある者の話によれば発見された遺体はどれも胴体から首や手足が引きちぎられており、犯行現場となった被害者の寝室はおびただしい程の血で染め上げられていたという。

また、引きちぎられた肉片は部屋中に散乱しており経験豊富な警察関係者や監視官ですら、状態を保全しなければならない現場で込み上げる胃内容物を吐き出してしまうことがままあったという。

それだけの見るも無残な現場である、発見者となった家族の多くが精神に異常をきたしたのも無理もないことだったろう。いくつかの現場では駆け付けた刑事が、赤黒く変色した血に肌や服を染め上げながら、遺体の散らばった肉片をかき集めている家族の姿を見たいう報道も一時期話題になった。

そほどまでに苛烈な状態の現場は、捜査をする者の厳選を余儀なくされ、選出された刑事の少なくはない数でも脱落者は後を立たなかったという。途中脱退者の半数は症状に差はあれど精神に何かしらの異常をきたした。深刻な状態の者の内数人は精神病棟に入院、一線から退くことを余儀なくされた。