約1か月の研修を終えて、祥子は「桧川 祥」として学生寮へと入った。


「今日からこのクラスの新しいクラスメートとなった桧川 祥くんだ。
彼は小さい頃に病弱だったため、体もこのように小さい。
この学園においてイジメをするなどというせこい精神の持ち主はいないと思うが、彼が困っていたら手を貸してやってほしいと思う。

いいな。」


「はーーい!」


「では桧川の席は高名の隣な。」


前から3番目の席に高名洋介はいた。
ちょっとつっけんどんな感じだったが、黙って教科書を開いてくれたのは彼がイジワルなヤツではないことを物語っていると祥子は感じた。


「いろいろありがとう。
教科書はこれからもらえるらしいから、明日は大丈夫だと思う。」


「あ、気にするな。
俺はこういう・・・その不器用な男だから、教科書見せるくらいのことしかしない。
他人にどうすれば親切にできるかなんてわからないんだ。」


「ううん、高名がいいやつなのはわかってるから。
できれば友達になってくれれば、うれしいと思ってるんだ。」


「ほんとか?」


「うん。よろしく頼むよ。」


放課後、祥子が学生寮の手続きをしていると、高名が世話役の先輩を紹介するといってきた。


「この寮での世話役というか面倒見のいい先輩なんだ。
中澤明央(なかざわあけお)先輩だよ。」


「おまえが噂の美少年くんだな。
ようこそ、我が北天寮へ。
俺が、ここの世話役担当 3年の中澤明央だ。
よろしくな。」


「あっ、桧川 祥です。
これからお世話になります。」


祥子は中澤の体格を見て、ここは男子寮なんだな・・・と感じずにはいられなかった。
太い腕、熱い胸板、男性の体臭、大きくて丈夫な足。


「どうかしたか?」


「い、いえ・・・先輩は大きいなって思っただけで・・・。」


「そうか。まぁ俺は剣道部だから、このとおりでかいんだけどな。
それにしても、おまえ・・・細いな。
華奢っていうか、先生からきいたが病弱なんだってな。

それなのに自宅生じゃないって勇気はあるんだな。」


「ええ・・・まぁ・・・事情がいろいろありまして。」


「そっか・・・言いたくない家庭の事情を根掘り葉掘り聞きだすのはよくないよな。
すまない。
早速部屋に案内するよ。
おまえは俺と同室だ。
いびきかいたらごめん・・・先に謝っとくわ。」


「えっ、同室ですか?」


「ん?俺と同じ部屋じゃ嫌かな?
学園長が寮長先生を通じて、俺を同室にしたんだが。
ほら、おまえ体が弱いだろ。
俺ならおまえくらい軽くかつげるしさ。

心配するな。
何かあっても俺が守ってやるから。」


「あ・・・す、すみません。気を遣わせてしまって。」


「いいからいいから。」