翌日、夕方5時30分には雪貴は貴文の邸にきていた。

前日のことをさりげなく三枝卓からきいていた祥子はにっこり笑って雪貴の前に現れた。


「昨日はごめんなさい・・・。私、勉強と習い事で疲れて早く寝てしまったの。」


「いや、遅い時間に俺が勝手にやってきただけだから気にしないでくれ。」


久しぶりだったからか、どこか会話がぎこちなくなってしまう。


2人ともぎくしゃくした感じに言葉が出なくなってしまうと、ついに黙ったまま時間が過ぎていく状況がおとずれてしまった。

(困ったぞ・・・言葉が見つからない。
こんなこと、10年ぶりに会ったときでさえ、なかったはずなのに、どうして言葉が出てこないんだ。
抱きしめて帰ってきてほしいと思っているのに、祥子の前に出ると、怖くなる。
この俺が・・・女子高生に去られるかもしれないと思うと怖いなんて。)


様子を見ていた三枝がさらっと祥子に話し始めた。


「祥子様、不思議に思ってるでしょうねぇ。
私と同い年にもなるこの男が、祥子様を前に怖気づいている様子は・・・。」


「えっ?どうして・・・」


「こたえているんですよ。あなたが自分は若いし、いろんな人に会っていろんな体験したいから放っておいてほしい。
つべこべ文句いってくるんじゃねぇ~よ・・・オッサン・・・。
みたいなことを言われて出ていかれて・・・小さい頃のあなたが雪貴さんにまとわりついていたことがすっかり夢に思えてきたみたいなんです。
情けないと思いませんか?」


「おい、三枝!」


「黙っていたらあなたの想像が現実になってしまいますよ。
言いたいことがあったらはっきり言うようにってあなたが言っていませんでしたっけ?」


「三枝・・・そんなにズバズバ言うなよ。
俺は今の祥子に何でもいうのは・・・。怖いんだ。
高校生なんだから、いろいろ体験しなきゃいけないのはわかるし、俺の仕事上のパーティーとかに出席させるのもかわいそうなだけだともわかってるさ。

けど、俺はこのまま放っておかれる状況では、学校経営にも支障をきたしてしまうし、そろそろ身を固めないといけないかなぁ・・・って思うし。」


「あの!それは雪貴さんが、他の誰かと結婚されるということですか?
私は婚約解消されちゃうってことですか?」


「君の気持ちがもう俺から離れているなら・・・仕方ないけれど・・・。
メールしても無視、電話も出てくれない・・・会う時間もとれないとなったら覚悟を決めるしかないだろう。
俺は学生じゃないからね。」


「私は・・・私が未熟だから雪貴さんの同伴者としては何もできないってずっとショックで、パーティーとかあの場が大嫌いだった・・・けど、雪貴さんのお仕事がうまくいったって私にお礼を言われるとすごくうれしくて、笑ってたってるだけでも役にたてたんだって思うことにしてきました。

男子校で生活して、いろんなお話をきいていかに私が何も知らないかって知らされて・・・家のことも心配で雪貴さんに甘えてばかりなんだって反省して、ここに逃げてきてしまいました。

でも、雪貴さんに怖いなんて思わせてたって知らなくて・・・。
ちょっと離れて生活したかっただけなのに。」