貴文と雪貴はびっくりした顔で祥子をながめた。

「君は・・・財閥を継ぐように言われなかったのかい?」


「関連会社の社長をするってことですか?」


「まぁ、それとか実業家の婿をとって一族の繁栄を担っていくとかさ・・・。」


「お母様が、あなたは自分のやりたい道に進みなさいっていうのが口癖で、私は最近、保育士とか幼稚園の先生になりたいな・・・なんて思ってたから。
そっち方面の勉強をしようと・・・。」


「待てよ、そりゃ、資格はあるにこしたことはないけれど、君は・・・いや・・・もういい。」


「雪貴・・・俺たちが仕事に没頭していた間にいろいろあったみたいだ。
これからそれも調べなきゃならない。

たぶん、桧谷の家に何かあったんだろうが・・・いろんなことをもみ消したとしか思えない。
そのへんが祥子ちゃんの記憶喪失にも関係してるんだろう。

とにかくだ・・・ここで桧谷家の人間に彼女がここにいるのをまだ知られるわけにはいかないし、彼女を隠さなきゃならない。
それでだ・・・おまえの学校に彼女を入学させて、勉強はさせてあげるんだ。」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。
兄さん・・・俺の学校って・・・俺は塾も学園もれっきとした男子校なんだが・・・。」


「ひとりくらい女っぽいのがいても今はいいだろ。
のちにやばくなりそうなら共学に変更すればいい。」


「兄さん??いや、理事長にその覚悟があるのなら・・・いいんだけど・・・でも、俺のかわいい彼女を男どもの中に入れるなんて・・・それはあんまり・・・いや、あまりにも心配なんだけど。」


「やってみてから考えればいい。
生活面の指導はおまえがやれ。
男っぽくふるまうこととか言い聞かせてやれ。いいな。」


「ちょ、ちょっ・・・兄さん!」


「私、転校させられるんですか?
保育の授業受けられないんですか?

先生の資格は?ダメなの・・・?」


「わ、わかった。
祥子のやりたいことはよくわかったから、心配するな。

ただ、しばらく俺のいうとおりに生活してくれ。頼む!
俺たちは犯罪者になるわけにもいかないし、君のお母さんや家のために、まだ君には家にもどってもらっては困るんだ。
君の義兄さんや義姉さんのやっていることや、会社の実態をつかむために君にはここにいてほしい。」


「それって義兄さんや義姉さんが悪いことをしてるってこと?
そりゃ、業績悪いとかいわれてるわりにいつも派手だなっとは思ってたけど・・・。」


「君に驚くくらいの求婚願いが届いていることは知ってるかい?」


「えっ・・・そんなの知らない。
どうして・・・そんな。」


「無事なところを乗っ取るつもりか、ご両親の遺産狙いだよ。」


「だって、遺産って私は、お父様とは血がつながってないし。」


「彼は婿だ。君のほんとのお父さんの遺産だよ。」


「私のお父様の遺産?そんなの・・・お母様が・・・。」


「おそらく、お母さんも知らないことがある。」


「えっ?どうして・・・あっ、お父様と佐伯さんのお父様との間に何か・・・あった?」


「うん、まあね。察しがいいのはお父さん譲りだね。
とにかく、まずは君の新しい日常をこしらえよう。

さぁ、育ちのいいぼっちゃんに変身ショータイムといこう!」


「えぇぇぇ。あっ?な、何をなさるんですか!」