中務産業の副社長の中務荘司は貴文とは小さい頃からのソロバン教室でのライバルだったという。

学校が同じでなかったけれど、お互いに数字に興味があり、小学生の低学年からソロバン教室で知り合い、いい意味での競争相手だったらしい。

社会人になってから、企業間でのパーティーなどで顔を合わせる程度のことはあったが、お互いが忙しくてじっくり話す時
間がとれなかったが、夏生と陽子の企てがあって2人でディナーをとりながら話をしたのだった。


「びっくりだな・・・あの佐伯が俺をそこまで信頼してくれてたなんてな。
しかも、いちばんいいたくない思い人の秘密まで打ち明けるなんてな。」


「ライバルであり、企業家としてはおまえのことは好きじゃない。
だが、数字は嘘をつかない・・・それはおまえもそう思ってるはずだ。
だから、不正なことはしたくないだろうし、弱い者は守ってくれると信じている。」


「ああ、数字は嘘をつかない。
嘘をつくときは人間が故意に操作したときだけさ。
俺もおまえも子どものときからそんなことはわかっていたライバルだった。
よく知らせてくれた。

おまえが知らせてくれなければ俺もオヤジも小物に大損させられるところだ。
それに、その責任を未亡人がとるなどありえない。
おまえには、未亡人を幸せにしてやってほしいと思えた。」


「中務・・・。」


「おおっと。俺たちはライバルだ。親友じゃない。
ビジネスの種類もやり方も違う者だ。
だが・・・数字は右上がり希望なのは同じだな。
やり方は俺に任せてくれ。
おまえに悪いようにはしない。
今回はわが社を救ってもらって恩に着る。

おまえはのんびりといい知らせだけ待って、社長のイスで座ってるといい。
それと・・・いいライバルでいてくれよな。」


「わかった。
いい酒を用意してるよ。
あ、ついでにソロバンもな。
読み上げ算対決でもしようぜ。」


「OK!
そういう勝負は得意だし負けないからな。」


貴文は今頃になっても自分の本質は子どもだな・・・と独り言をつぶやきながら帰っていった。


しかし、中務荘司はそんな子どものときからの付き合いに反することなどぜんぜんないいい男だと知らされることになる。


桧谷夏生と陽子が機能していない工場ばかりか、抵当に入ってしまっている土地まで売りつけようとしていることが発覚したのであった。

しかも陽子は雪貴を陥れたときと同じ手を使って中務荘司からお金をとってやろうとしていたらしく、わざと荘司と似たタイプのボディガードに代わりをさせておいたおかげで、荘司は罠にかけられることもなく、逆に悪だくみな証拠を得ることができたらしい。