雪貴と祥子は控室で祥子の私物のバッグを見た。


「このバッグはお母様が私が小さいときにくれて、今になって使っているんだけど、このバッグともう1つ同じデザインの小さなバッグがあるの。
でもね、これはよく似てるんだけど、じつは微妙に絵が違うの。
もらったときは小さかったからバッグのデザインよりもお母様の使ってたものをもらえるっていう方がうれしかったの。

小さいころから使っているものというと、このバッグ2つしかないと思うんだけど。」


「君の年にしては大人びたバッグを持ってるなって思ってたけど・・・あれ?
この小さなバッグそこがやけに固いな。

あっ、ちょっと底だけ裂いてみていいかな。何か入ってるみたいだ。」


「ええ。」


雪貴がバッグの底の縫目を少し切って広げてみると、小さなセロハンが入っていて字が書いてある。


「あっ、これは・・・住所?この筆跡は・・・見覚えがある!
この字は君のお父さんの字だ。」


「えっ?まさか・・・これがお父さんが私に残してくれた遺産?」


「住所地に行ってみないとわからないね。
でも、この住所・・・どこかで・・・なんだか懐かしい気がするんだが。

ちょっと近くにいる部下に調べさせよう。
俺たちが今、ここを出ていくわけにはいかないからね。」


「何だか・・・怖い。」


「大丈夫さ。君のお父さんが君を泣かせるわけないだろ。」


15分ほどして、雪貴に電話がかかってきた。


「ああ、俺だ。そ、そっか・・・そこなのか。
わかった。
手間をかけさせてすまなかった。ありがとう。
仕事にもどってくれ。」



祥子が心配そうな顔をして雪貴を見ている。


「君の遺産は立派なリゾート地だそうだ。
管理しているのは、君のお父さんが子どもの頃から仲良しだった人物らしい。
彼も地元ではそこそこ名の知れた実業家だそうだが、君のお父さんの持ち物は大切に守ってきたとのことだ。

いずれ君がその手紙をたどってやってくるのを待っていたらしい。
行ってみるかい?」


「もちろん行きます!」


「ただ、引っかかるのはどうして君のお母さんにもそこのことはお父さんは知らせなかったんだろう。」


「お母様は知ってるのかもしれない。
だけど、もともと父と母は結婚する前から親にもらったものとかはお互い別々に管理してたの。
結婚生活をしていて作った財産で十分やっていけるからって・・・。」


「なるほどね・・・。
財産より愛情だったわけだ。

しかし、まさか今になって義理の子どもたちが躍起になってさがすとは思ってなかったんだろうな。」


「私・・・怖い。
お父さんが私のために莫大な財産なんて残してたとしたら・・・すごく恐ろしくて。」


「大丈夫だ。俺も兄貴もついてる。
あ、念のためいっておくけど、俺は君のお父さんの財産に興味があるんじゃないからな。」


「ぷっ、雪貴さん・・・たら。
ありがとう。」