その日、祥子は雪貴にいくつかのブティックや装飾品の店を連れていってもらったが、とくに話もせず、食事をするにも簡単なあいづちしかうたない日だった。


(どうしたんだ・・・祥子のやつ。
兄貴には俺を守るなんて言い放ってたはずなのに。
ときどき悲しそうな顔をしてた。

まるでもうこの家から出ていくかのような・・・。
俺のそばが嫌なのだろうか?)



雪貴は祥子のことが気になって、祥子の部屋の近くを夜更けに通ってみたが、なんとちょうど祥子が部屋を出て、どこかへ移動し始めた。


(こんな時間にいったいどこへ?)


祥子は台所へ行き、ジュースをコップに1杯飲むと、庭へと出た。

月明かりの下で、手足をのばしてくるりと1回転したかと思うと、祥子は涙を流して泣き出した。


「私・・・こんなにお子様だもん。
子守りにしかならないよね。
大人の会話なんてできないし、パーティーなんて嫌い。
お母様や雪貴さんを守れるなら、そりゃがんばるけど・・・それだけだよね。

お母様が貴文さんのところへ行くなら、私は貴文さんに寮か下宿できるところを世話してもらおう。
雪貴さんのおじゃまはもうしないようにしないと。」


「俺は祥子がじゃまだなんて言った覚えはない!」


「えっ・・・雪貴さん、どうして?」


「それは俺のセリフだ。
パーティーが嫌ならそういってくれていいんだ。」


「あ、今度はちゃんと出ますから。
嫌とかそういうのではないです。」


「嫌なんだろうが・・・。
俺も嫌いだ。パーティーとか社交的な場はどうもめんどくさくてな。

無理はするな。
正直にいっていいんだ。
おまえに無理強いさせるつもりはないから。

おまえはまだ高校生だし、エスコートされることも慣れてないしな。」


「そうよ、高校生で何もできないから・・・私はここを出てしっかり勉強した方がいいの。」


「なんか冷たくなったもんだな。
前は俺の嫁さんになるから、ついててあげなくっちゃとか言ってたのに。」


「だって、それは小学生の頃だったし、雪貴さんはもう実業家だし・・・大人の女性に囲まれるのわかってるし。」


「もうそんな気はなくなってしまったということなんだな。」


「そう思うんなら、それでいいよ。」


「じゃあ、どうしてここでそんなに泣いている?
俺はてっきり、祥子が俺と離れるのはじつは嫌なんだと思ってくれているのかと・・・うれしかったのに。」


「えっ?うれしい?」


「ああ。俺は仕事場から出かけるときは、どうしてもスーツだし、オッサン扱いされる。
このあいだもそうだったが、中澤とか須藤がおまえを送ってきてくれても、『ああ、ありがとう』としかいえないからな。

ほんとのところは、おまえたちのようなヤツらが祥子に触れるだけでも許せないんだよ!って上から目線で投げかけたいのにさ。」