突然の桧川祥の退学にかなりの文句が発せられたが、ほとんどの生徒は祥子が女の子だと知らないまま見送ることになった。

しかも、祥はいつ退学したのかもわからないうちにいなくなってしまっていたのだった。


「くそぉ、桧川が何をしたっていうんだよ。
あいつはどこへいったんだ。あいつは文化祭で舞うって言ってた。
俺は楽しみにしてたのに・・・なんで・・・!」


「須藤先輩・・・そんなに桧川のこと気にかけていたんすか?」


「ああ、あいつは見てるだけでほんとに絵になるほど美しい。
例え、男でもな、桧川わーるどっていうのかな・・・なんか天女が舞うような美しさがたまらないんだよなぁ。」


「須藤先輩・・・ろまんちすとっすね。」


「そうか。あははは。桧川・・・どこにいるんだ?
くそぉ!」


須藤はその日、実家へ帰っていった。

須藤の実家は温泉旅館を経営していて、帰ると妹の友達が遊びにきていた。


「おい、そろそろ店が忙しくなる頃だし、友達には帰ってもらえよ!」


「お兄ちゃん、そんなのお兄ちゃんが手伝えばいいでしょ。
いつも私ばっかり押し付けないでよ。
でなかったら、帰ってきていらないわよ。」


「何、生意気いってんだ!
夕飯時だったら、友達だって家の人が心配してるだろ。
俺が送ってやってもいいから、おまえは食事の手伝いをしろ!」


「ええーーー!」


「まどか、私はもう帰るから家の手伝いして。」


「祥子、ごめんね。私が日舞の振り付けを教えてもらってたのに・・・。
あ、お兄ちゃんに送らせるから、ちょっと待ってて。」


「でも、まどか・・・そんなのお兄さんに悪いし。」


「いいから、待ってろ。
俺が送ってやるから。」


祥子は旅館の裏口から帰ろうとしたが、須藤が追いかけてきた。

そして隣に並んだと同時に須藤が叫び声をあげた。


「お、おまえ・・・女だったのか?」


「はっ?・・・す、須藤先輩。」


「やっぱり、桧川だ。
どういうことだ。おまえは女の子だったのか・・・。」


「ごめんなさい・・・。事情は詳しく言えないんだけど、少しだけ男子校でかくまってもらっていたの。
だけど、私が女の子なのがバレちゃって。それで・・・」


「そっか。女の子だったんだ。」


「先輩、あんまり驚かないんですね。」


「まぁな。ほんというとさ、どこかでおまえが女の子だったらいいなって思ってたのかもしれないな。
まさか、おまえが妹の友達でうちにやってきてたなんて知らなかったけど、これも縁っていうか、俺たちの秘密というか・・・なぁ、あのさ、あの・・・俺と付き合ってくれないか。」


「えっ?そ、それは・・・困ります。」


「なぜだ?もしかして好きな男がいるのか?」


「はい。だから・・・ごめんなさい。」


「そっか・・・でも俺はおまえを好きでいる。」


「はぁ?」