しばらくして、祥子の前には雪貴の兄と名乗るスーツ姿の男性がいた。

「大きくなったね。祥子ちゃん。
お母さんは未亡人5周年のパーティーで腹違いのお兄ちゃんとお姉ちゃんもとても多忙そうだ。」


「あなたは誰なんですか?それに、未亡人5周年じゃなくて会長職5周年よ。」


「おいおい・・・雪貴から話はざっときいたけど、俺まで忘れているとはねぇ。
これは事態は思ったよりも深刻なのかもな。

俺は雪貴の兄で佐伯貴文。38歳だ。
君からみるとおじさんって言われちゃうかな。
じつは俺は君のお父さんとは友人で・・・だけど恋敵。

つまり君のお母さんの志奈子さんをずっと思っている男さ。
いったんは友人のために身をひいたけど、今度ばかりはもうひく気はないんだ。」


「つまり、私のお義父さんになりたいってこと?」


「そうだよ。だけどね、いろいろと君の家のことを調べていくと、君の家は大変なんだな~ってことがわかっちゃってね。
志奈子さんを口説き落とす前にやらないといけないことをやっていくつもりなんだ。」


「な、何ですか?それにうちが大変って何かあるんですか?」


「うん・・・君の家はお金持ちなんかじゃない。
お父さんがけっこうお金を使い込んでいたし、今もかなり業績が悪くて、あの兄さん姉さんじゃつぶれるのも時間の問題だね。

あ、社員のことは心配いらないよ。
俺と弟で世話してやるからさ。

財閥とはもう名乗れないね。
親戚一同はもう、他の会社にみんな吸収されたり属してしまって名前も残らない状況だ。」


「私は口減らしってわけなの?
それとも、私は雪貴さんに買われるってこと?」


「ぷっ!いいねぇ。おじさんだったら雪貴なんか目じゃないくらいの高値をつけてあげる!って言いたいところだけど、俺たちは君を買うんじゃない。

ただ、君にはきちんとした教育を受けさせてあげたいだけなんだ。
まずはきちんと高校卒業して、大学または専門学校に行くこと。

そして、しっかりした社会人になること。」


「どうして・・・そんなこと。
私の家は大変なのでしょう?だったら私、学校をやめて働かなきゃ。」


「だめだ。君は学校を出てから働けばいい。」


「なんでそんなこと・・・雪貴さんが決めるんですか?
そんな権利なんて!」


「あるさ。俺の嫁になるならそれなりの教養や知識がないとね。
立派なレディでいてほしいんだ。」


「あの、ちょっと待って。
私、雪貴さんの嫁になんてなりません。
過去になんて言ったのかわかりませんが、記憶もないし、私の家は貧乏なわけだから、私ががんばらないと。」


「今の君がどうやってがんばるんだい?
アルバイト程度では、誰も救えないぞ。」


「そ、それは・・・」