雪貴と差し向かいの席に座って食事をするのは、祥子にとっては苦手なことだった。


(笑顔で私の顔をしっかり見つめたまま・・・なんか苦手だわ。
明央先輩とのこととか責めないのかしら?)


「どうした?何か根掘り葉掘りきかれるかといった顔をしてるな。」


「違うんですか?
私は女の子だってバレてたんですよ。
それを隠して・・・同棲してたようなものなのに。
罰しないんですか?」


「罰してほしいのかい?」



「そ、それは・・・。」



「ふふっ、こうやってみると短い髪の君もかわいい。
キスしたくなる。」



「だ、だめ・・・。あ、あん・・・。あれ?」


雪貴は祥子を抱きしめただけだった。
しかし、雪貴の胸は祥子にとって妙に懐かしくもあり、安心できてしまうことに驚いた。


「うそ・・・どうして?」


「学院長が高校生に手を出すわけにもいかないだろう。
けど、俺は祥子が気に入ってるから。」


「えっ・・・私が雪貴さんを追っかけていたんでしょう?
あぅ・・・。」


「どうした?」


「頭が・・・頭が痛くて。
気分も悪くなってきたみたい。
はぁ・・・はぁ・・・。」


「すまない。すぐに部屋へおくらせる。
いや、俺は・・・。」


雪貴は思わず出そうになった言葉をおさえ付けた。


(俺はいつ振り返って君を捕まえようかと、考えていたんだよ。
ずっと俺を追ってくれるものだと信じていたのに、君が来なくなってとても悲しかったよ。
だからもう、君を・・・絶対に離さないからな。)


祥子が目覚めると、執事兼ボディガードの三枝環が心配そうに祥子の様子をみていた。


「あ、私・・・。
ごめんなさい!三枝さん。
何か記憶がもどりそうで、もどらなくて、苦しくて倒れちゃって。
私、最近はこんなことなかったのに、久しぶりに、どうしちゃったんだろう。」


「あなたの過去については主人からきいています。
そしてそれをあなたに説明してはいけないこともね。
だから、すみません・・・わかってください。」


「うん、自分で思い出せっていうんでしょ。
なんかすごくつらいことがあったのよね。
雪貴さんたちの様子でわかるわ。
かなり時間のロスはしちゃったけど、数学・・・いいかな?」


「はい。
用意はしてあります。
お嬢様さえ、ご気分が悪くなければですが。」


「うん、大丈夫よ。
明日のために勉強勉強!っと。」